エグゼクティブサマリー
マネタイゼーションのアナリストにとって、新しいプランのローンチはわくわくする出来事ではありません。収益性の再計算、プランミックスの組み直し、予測の更新、そしてダッシュボード全体で過去との比較可能性が壊れることを意味するからです。
チームが Stripe で新しい product_id や price_id を作った、あるいは新しいプランをローンチしたと聞くたびに、私にはその意味がわかります。これからの数週間で、基本的にすべてをやり直さなければならない、ということです。企業によっては、(有効・無効を含めて)100 個を超えるプロダクト ID を抱えるに至ることをご存じでしょうか。プロダクト ID と価格 ID の分類体系を維持するだけでなく、分析とレポートが正確なままであるように、プランのマッピングに一貫性を保たせる必要もあります。
数年にわたって企業の成長を、そして ARR と顧客基盤の拡大に合わせてプラン数が増えていく様子を見てきて、私は一つの仮説を持つようになりました。プランラインナップが多様であるほど、成長は速いというものです。
この [秘密の] 仮説は、私が現在担当している 26 個のアプリに基づくもので、統計的にはまったく意味がありません。これに関する研究や分析も見つけられなかったので、SaaS とサブスクリプション向けで最大級の分析プラットフォームである ChartMogul と協業し、そのデータを使ってこの考えを証明するか棄却するかを試せることを、嬉しく思いました。そして、魔法が起きたのです! ✨
以下は、ChartMogul チームから提供された過去の成長率とプランデータを含む、8,000 社超のデータの分析です。データセットは匿名化されており、成熟したエンタープライズ SaaS から小規模で急成長中のアプリまで、幅広い企業を対象としています。目的は、急成長企業がより多様なプランラインナップを維持する傾向にあるかどうかを検証することです。プラン数が成長とどう関係するのか、プランが多いことは速い成長と結びついているのか、あるいはプランが少ないことは遅い成長と相関するのかを見ていきます。この記事では、データ、手法、そして得られた学びを順にたどります。
Olga Berezovsky は米国サンフランシスコを拠点とする Analyst-in-Residence 兼データサイエンティストです。ペルソナクラスタリング、ユーザーライフサイクルのモデリング、成長・リテンション分析を通じて、急成長中のサブスクリプションプロダクトがユーザー行動を収益へ変えるのを支援しています。以前は MyFitnessPal、Microsoft、VidIQ、First Republic Bank でプロダクト分析チームを率いていました。
データサイエンスとプロダクト分析についての週刊ニュースレター Data Analysis Journal を執筆しており、世界中の数万人のアナリストに読まれています。
料金プラン:選択肢が増えるほど、悩みも増える
インサイトに入る前に、まずプランについて話しましょう。
今日、料金プランの選択肢は数え切れないほどあります。月次、年次、四半期、週次、ライフタイムなど。単一のプランだけを提供する企業もあれば、20 個、50 個、あるいはそれ以上を抱える企業もあります。価格は単純な定額にもできますし、シート数、アクティブユーザー数、トランザクション数、収益、その他の使用量ベースの指標に応じてスケールさせることもできます。
プランデータを扱うのは簡単ではない
一貫したプラン管理は、ほとんどの SaaS 企業にとって頭痛の種です。プランは通常、Stripe、Adyen、Apple App Store、Google Play といった請求システムやプラットフォーム上で作られ、それぞれ決済の処理方法、サブスクリプションデータの保存方法、データのエクスポート方法が異なります。
複数の決済手段(たとえば iOS アプリと Android アプリ)を提供している場合、まったく異なるデータソースを一つのまとまったレポートに統合する必要があります。そのレポートでは、ARR や「アクティブ」顧客、チャーンなどの定義を一貫させたうえで、プラン、請求期間、価格、その他の属性によるセグメンテーションもできなければなりません。
これにはほぼ必ず、洗練された柔軟なプランマッピングのレイヤーが必要になります。たとえば Apple の product_id を Stripe の price_id に対応づけたり、price_564738589 や IDS_5668 を pro_49.99_7d_trial や lite_69.99 のような読める値に変換したりする層です。
高度な AI システムを扱っているなら、プランのコンテキスト も与えなければなりません。どの地域でどのプランが有効なのか、ユーザーにはどの価格が見えているのか、割引がいつどのように適用されるのか、各プランがどのファネルに属するのか、といった情報です。
総じて、プランミックスというシンプルで本質的なものについてレポートするのは、簡単ではありません。インフラと継続的なメンテナンスが必要です。アナリストとして、サブスクリプションデータの複雑さを扱うために設計されたツールがあると、これがどれほど楽になるかは、いくら強調しても足りません。プランを増やしていくにつれ、分析とレポートを正確に保つために、プランの分類体系と設定をできるだけクリーンで一貫した状態に保つことが重要になります。
はじめに:定義、データ、手法
定義と指標
- プランミックス:企業が提供している有効な料金プランの集合と、顧客がそれらのプランにどう分布しているか。
- プラン期間:プランの請求サイクル(月次、年次、3 か月、6 か月など)。
- 顧客:現在プランに加入している、アクティブな有料顧客。
- テニュア:ChartMogul 上で観測される企業の経過年数。具体的には、ChartMogul にその企業のデータが存在する年数。
- ARR:ChartMogul が算出する年間ランレート。
- 年間 ARR 成長(導出値):ARR 成長 ÷ テニュア。
- 顧客成長(導出値):月当たりのネット新規顧客数。
- 成長スコア(導出値):組織ごとに ARR 成長と顧客成長を組み合わせたスコア。顧客成長が高い一方で ARR がゼロというケースを避けるため、ARR 寄りに 60/40 の重みを置いている。
データサンプルの概要
- サンプル総数:8,193 組織。
- 経常課金プランを 1 つ以上持つ組織:6,875。
正規化を行い、データが欠損または不完全な組織を除いた結果、最終サンプルは 4,279 社 となり、ARR の内訳は次のとおりです。
これらの企業全体のプランミックスは次のとおりです。
全体として、54% の企業が 10 プラン以下を、46% が 11 プラン以上を提供しています。
私はプランミックスを直接モデル化したわけではありませんが、それでも成長を解釈するうえでは重要です。有効なプランの数は通常、企業が成熟し、顧客セグメンテーションを改善し、マネタイズの手法が高度になるにつれて増えていきます。またチームは、サブスクリプションプランに加えて、アドオン、単発の取引、フリーミアムプロダクト内の広告によってマネタイズを広げることもできます。この分析はプランミックスのみに限定しており、 経常課金プランがいくつ提供されているか、その期間はどうか、どのように分布しているかに焦点を当てています。
手法
成長の定義には複数の方法があります。私はまず ARR 成長から始め、各社の 年間 ARR 成長 を計算し、その ARR 成長に基づいて(k-means を使って)企業を 5 つのセグメントにクラスタリングしました。
次に、顧客数 について同じ分析を行いました。SaaS では、収益成長が必ずしも顧客成長を意味しないからです。 ChartMogul のデータセットは幅広く、あらゆるタイプと規模の SaaS 企業が含まれるため、「うさぎ」も「象」も、そして動物園まるごとが揃っています(Christoph Janz の「1 億ドル規模のビジネスを作る 5 つの方法」の意味で)。これを踏まえて、月当たりの新規顧客数 という成長指標も作りました。予想どおり、顧客の成長は ARR 成長とは違った姿を見せます。
このサンプルでは、47% の企業が年間 +27 万ドル超の ARR 成長を示していますが、月に 10 顧客以上を積み上げている企業は 17% にすぎません。これは、データセットが大口顧客(「クジラ」)を相手にする企業に偏っているか、あるいは ARR 成長のかなりの部分がエクスパンション収益から来ていることを示しています。そしてエクスパンション収益は、より多くのプランを提供していることと相関しがちなのです。
規模も年数も大きく異なる企業間で比較できる成長シグナルを作るため、年間 ARR 成長(ARR 成長をテニュアの年数で割った値)と 月当たりのサブスクライバー成長(有料サブスクライバーの純増減を、データセット内の観測月数で割った値)の両方を使いました。そのうえで、この 2 つを 1 つのスコアにまとめ、ARR 寄りに重み付け(60/40)しました。こうして得られたのが、シンプルな「速度」の指標です。ある特定の月に何が起きたかではなく、観測期間全体を通じた平均的な成長率を表します。
次に、企業を 5 つのクラスターに振り分けました。
- アーリーブレイクアウト(「絶好調!」):爆発的な成長。ARR は年間 +33 万ドル超、新規顧客は月 6,000〜7,000 人。
- 順調な急成長(「市場を取りにいっている」):力強い成長。ARR は年間 +27 万ドル前後、新規顧客は月 1,000 人以上。
- 成熟しつつ加速(「ホールド」/「何も触るな」):安定した複利成長。ARR 成長は年間平均 +16 万 5,000 ドル。
- 停滞する既存プレイヤー(「これは機能していない」):モメンタムが低い。ARR 成長は年間おおよそ +1,500 ドル未満、新規顧客は月 10 人未満。
- 減少(「ピボット資料が来る」):縮小している企業。ARR 成長はゼロまたはマイナス。
注意点: 区分は、合成成長スコア(年間 ARR 成長 + 月当たりサブスクライバー成長)のしきい値によって割り当てました。例外を 1 つ設けています。ARR 成長とサブスクライバー成長がともに非プラスの場合は、合成スコアにかかわらず「減少」と分類しました。「アーリーブレイクアウト」は、スコアが高いだけでなく相対的に 若い 企業に限定しています。企業の初期に急速に複利を効かせることは、10 年の試行錯誤を経てから急成長することとは、意味が大きく異なるからです。
プランデータの分析から見えたこと
- プランが多いほど、成長は大きく、速くなる傾向があります。
- プランの提供を広げることは、より高い収益とより大きな顧客成長と正の相関があります。プランを追加する企業は、価格とパッケージングの経路をより多く作り出し、それがマネタイズと顧客獲得の両方を支えうるのです。
- 例外もあります。アーリーブレイクアウト企業は、プラン戦略にかかわらず最速の成長を示すことが多くあります。
- プランを増やすことは、成長の大きさだけでなく、企業がスケールする速度にも影響しうるものです。
順に見ていきましょう。
1. ARR が大きいほど、企業が提供するプラン数は多い
ただし、相関は因果ではないことを忘れないでください。ARR の高い組織が多くのプランを提供する傾向にあるからといって、プランを増やせば収益が伸びるとは限りません。プランの複雑さは、単に成長のあとを追っているだけかもしれません。企業がスケールするにつれて、セグメンテーションのためのティア、エンタープライズ向けパッケージ、地域別価格、バンドルを導入していきます。言い換えれば、プラン数はモメンタムの結果でもありうるのです。プラン数がドライバーだとより確信するには、プラン数の異なる企業間で成長パターンを比較する必要があります。
2. プランが多いことは、あらゆる企業ステージで高い成長と相関する
企業の成長率は大きく異なり、それはこの分析では大半を定量化できない数多くの要因によって形作られています。それでも できる のは、企業を成長に基づくグループ(アーリーブレイクアウト、急成長、成熟、停滞、減少)に分け、成長率とプラン数の関係がそれらのグループ内でも強く保たれるかを確かめることです。
明らかに、企業規模や出発点の ARR にかかわらず、急成長企業のほうがプラン数の平均も中央値も高くなっています。 慎重を期して、プラン数の指標は正規化したものと正規化していないものの 2 つを報告しています。分布に影響力の大きい外れ値が含まれるためです。この関係はほとんどのグループで成り立ちますが、アーリーブレイクアウトは例外です。これも想定どおりで、テニュアの短い新しいブレイクアウト企業であり、当然ながらプランラインナップを広げる時間がまだ少ないからです。
3. プランを追加するほど、成長率は高くなる
では、プランを追加することがより良い成長率と結びついているか見てみましょう。
同じパターンが、ほとんどのセグメントで成り立ちます。プランを増やし続ける企業、つまりプロダクトや価格帯を追加していく企業は、より高い成長を示す傾向があります。
ここからわかるのは、成長を左右するのは早い段階で多様なプランを揃えていることだけでなく、時間をかけて新しいプロダクトと価格の選択肢を継続的に投入し続けることでもあるという点です。急成長企業が、停滞・減少している企業よりも大幅に多くのプラン(10 個超)を追加する傾向にあるのは、実に興味深いところです。
4. プランが多いことは、成長の速さに影響する
成長は、テニュアと速さの文脈で分析することも重要です。
たとえば、60 か月で ARR が合計 100 万ドル成長した A 社は、月当たり約 1 万 6,600 ドルのペースです。一方、B 社は 6 か月で 30 万ドル成長しているかもしれず、これは月当たり 5 万ドルになります。B 社のほうが速く成長しているので、速度では上位に位置づけられるべきです。
だからこそ、この分析では全体の成長だけでなく 成長速度に注目しています。狙いは、プランを多く提供することが、企業がより高い ARR に到達するのを助けるだけでなく、そこへより速く到達することにもつながるのかを理解することでした。
そのために、(a) ARR 成長、(b) テニュア、(c) ARR 成長の速さに基づいて 5 つのペルソナ(セグメント)を定義しました。
- arr_growth_total = Max ARR – Min ARR
- tenure_months ≈ (Max Date – Min Date) / 30 days
- arr_growth_per_month = arr_growth_total / tenure_months
最後の指標が、クラスタリングの主要因です。成長の大きさも織り込みながら、ARR がどれだけ速く増えているかを表します。
サンプルは大きく偏っており外れ値も多いため、k-means は使いませんでした。同じ大きさのグループ間で成長の速さとプラン数を比較したかったので、パーセンタイルによるセグメンテーションで 5 つのクラスターを作りました。名前は速い車をテーマにしています(ChartMogul チームは Formula 1 好きだという噂です)。
見てのとおり、このセグメンテーションでも同じパターンが成り立ちます。プランの多い企業は、より大きく成長するだけでなく、より速く成長するのです。
5. その他の興味深い発見
プランと成長の関係に加えて、次のようなこともわかりました。
- 成長は極めて非線形です。 ほとんどの企業は緩やかから中程度の成長に集まり、ブレイクアウト級の成長はまれです。もっともよくある失敗の形は「停滞」です。
- もっとも強いブレイクアウトでは、両方のシグナルが出ています。 ARR とサブスクライバーの成長は互いを補強します。どちらか一方だけが強くても、説得力に欠けます。もっとも健全な企業は、両方の軸で強い傾向があります。
- アーリーブレイクアウトは例外です。 もっとも初期のブレイクアウト段階では、企業はプラン数にほぼ「影響を受けない」ように見えます。プラン戦略は収益成長・顧客成長のいずれとも明確な関係を示さず、これらの組織は外れ値のように振る舞います。
- プラン数の多さは、価格テストを示していることもあります。 プランが多いことは実験と反復の表れでもありますが、この分析は有効なプランのみを対象としています(過去の、あるいは廃止されたバリアントは含みません)。
最後に
この分析を、私は長いあいだ心待ちにしていました。この取り組みを支え、データを共有してくれた ChartMogul チームに感謝します。
プランを増やすことだけで成長が生まれるわけではありません。しかしこのデータセット全体では、プランラインナップの幅広い企業のほうが、より力強く、より速い成長を示す傾向がありました。もっとも健全な企業は、顧客当たり収益を下げずにサブスクライバーを増やしています。そしてそれを可能にしているのは、多くの場合、優れたプラン設計です。
プランミックス、価格構造、サブスクライバー成長、そして ARR は密に結びついています。速く成長する企業は、異なる顧客タイプやニーズに合うプランをより多く提供する傾向があり、それがより良いセグメンテーションと、より効果的なマネタイズを支えているのです。