LTVとは
Customer Lifetime Value(LTV)は、平均的なサブスクライバー1人から、登録から解約までの間に得られると見込まれる収益です。LTVはサブスクリプション事業の健全性を評価し、顧客獲得について根拠のある判断を下すうえで価値のある指標です。
ただし、確度の高い推定は難しい指標でもあります。SaaS企業では、過去データの計測というよりも、ほぼ常に将来を見た推定になります。
LTVの計算
LTVは、平均的なサブスクライバー1人から、アクティベーションからチャーンまでの間に得られると見込まれる収益です。
実際には、顧客生涯価値を計算するモデルはいくつもあります。ここでは基本的で(広く受け入れられている)手法と、David Skokによるより高度な手法を取り上げます。基本的な方法でも複雑な方法でも、LTVの計算方法を理解しておくことが、事業判断の質を左右します。
シンプルなLTVの式
このLTVの基本式は、SaaS顧客のLTVを見積もる出発点として広く受け入れられています。
ARPA:Average Revenue Per Account(顧客1社が生み出す平均MRR)。
粗利率: 収益とCOGS(売上原価)の差。SaaSでは通常きわめて高く(80%超)なります。
カスタマーチャーン率: 顧客がサブスクリプションを解約していく速さ。
このLTVの基本式は有用な出発点として受け入れられています。とはいえあくまで大まかな推定であり、MRRの拡大、縮小、非線形なチャーンを適切に織り込めていません。
基本式の限界
基本式は楽観的すぎる結果を出します。コホートのライフタイム全体でチャーンが直線的に起こると仮定しているためですが、現実の多くの場面でそうなることはまずありません。ほとんどの事業では、コホートのチャーンは最初の3か月で最も高く、その後は徐々に落ち着いていきます。
上の例では、青い「現実的な」チャーンのほうが、直線モデルよりはるかに低いLTVにつながります。
さらに基本式は拡大を織り込んでいません。顧客が時間の経過とともにプランをアップグレードしていくのが通例なら、それはLTVに大きく影響します。
例で見てみましょう。
顧客Xは月100ドルのプランです。1年後に解約すると見込みます。LTV = 1,200ドル。
顧客Yも月100ドルのプランで、同じく1年後に解約すると見込まれます。ただし顧客Yは4か月目に月150ドルのプランへ、8か月目にさらに180ドルのプランへアップグレードします。LTV = 1,800ドル。かなり大きな差です。
We are using a formula to predict the future, and the future, by its very definition is not predictable. The value in this analysis is to get enough accuracy to make useful business decisions, such as what factors to look at to improve profitability. David Skok, Partner, Matrix Partners
高度なLTVの式
広く使われるシンプルな式の弱点に対処するため、Matrix PartnersのPartnerであるDavid Skokは、より精緻なLTVの式を提示しました。
こちらはかなり複雑です。でも心配は要りません。少し分解してみましょう。
この新しい式が加えている2つの概念は次のとおりです。
「K」=割引係数: あらゆる面での価値の目減りを扱います。通常のカスタマーチャーン率だけでなく、「割引率」も含みます。割引率は、リスクと、時間の経過による貨幣価値の低下の両方を織り込むものです。年率で、自分たちが事前に定めます。Skokはスケール前の事業なら20〜25%、スケール段階の事業なら10%の割引率を提案しています。割引率とチャーン率を使えば、割引係数は次のように計算できます。
「G」=拡大率: 解約していない顧客の年間成長率。つまり既存顧客における事業の拡大率で、これによりマイナスのMRRチャーンが式のなかでプラスの数値に変わります。
例
架空の私のSaaS事業には顧客が1,000社あり、MRRの合計は30万ドルです。ARPAは300ドルになります。粗利率は85%、カスタマーチャーン率は月10%です。
スケール前なので割引率は20%を適用します。解約していない顧客の月次成長率は25%です。
シンプルなLTVの式では2,550ドルになります。
David Skokの式を使うと、LTVは1,496.17ドルです。
価値を割り引くため、Skokの式のほうがLTVの見通しは明らかに保守的になります。
この高度な式は、事業のLTVをより現実的に推定してくれるはずです。拡大率が本当に強い場合を除けば、多くのケースでより保守的な数字になります。
ChartMogulのLTVの式
ChartMogulは、Customer Lifetime Valueを、各レポート期間のAverage Revenue Per Accountを、その期間のカスタマーチャーン率の6か月移動平均で割った値として算出します。
たとえばARPAが100ドル、カスタマーチャーン率の6か月移動平均が5%なら、LTVは2,000ドルです。
LTVはなぜ重要なのか
顧客獲得への支出をバランスさせる
顧客生涯価値は、顧客獲得にどれだけ支出すべきかを考えるときに役立ちます。自社のLTVが「X」だとわかっていれば、大きなリスクを負わずに「Y」を獲得に使えます。目安として、LTVは顧客獲得コスト(CAC)の少なくとも3倍あるべきです。
たとえば新規顧客の獲得に平均50ドルを使うなら、その顧客の生涯を通じて少なくとも150ドルの収益を生むことを目標にすべきです。
回収期間を見極める
顧客が獲得コストを「回収」するまでにどれくらいかかるでしょうか。CACに対してLTVが高ければ回収期間は短くなり、企業は成長により多く投資できます。
投資家向けレポート
投資家がLTVに関心を持つのは、それがSaaS事業の長期的な収益性と持続可能性を示す重要な指標だからです。LTVが高いということは、顧客が定着して安定した収益を生む可能性が高いことを意味し、事業はより安定して投資対象としての魅力も増します。
またLTVをCustomer Acquisition Cost(CAC)と比べることで、投資家は顧客獲得戦略の効率も測れます。LTVがCACを大きく上回っていれば、その企業が利益を出しながらスケールし、長期的な成長を実現できることを示します。リターンを求める投資家にとって決定的な点です。
要するに、SaaSに投資する多くの人は、投資候補の「健全性」を判断する材料の一部としてLTVを見たいと考えています。
LTVによるコホート分析
LTVは、顧客のコホート(グループ)を比較し、どのコホートが顧客獲得費用に対して最も高いROIを生んでいるかを見るときにも役立ちます。
コホートは通常、獲得時期、地理的な所在地、業種、行動パターンといった特性で切り分けます。各コホートのLTVを分析すれば、SaaS企業はどのグループが最も収益性が高いか、どのマーケティング施策や営業戦略が価値の高い顧客を連れてきているかを特定できます。
たとえばあるコホートのLTVが他より際立って高い場合、特定の獲得チャネル、プロダクトの提供内容、あるいは価格モデルがそのグループによりよく響いていることを示している可能性があります。この知見は、マーケティング費用の最適化、プロダクト開発の方向づけ、そしてROIの最も高い顧客獲得に集中するための営業戦略の調整に役立ちます。コホート別にLTVを追えば、季節性、地域ごとのプロダクトマーケットフィット、時間による顧客の好みの変化といった傾向も見えてきます。
マーケティング戦略の指針にする
LTVは、営業、マーケティング、プロダクトマネジメントのプロセスをそろえるうえでも重要な役割を果たします。異なる顧客セグメントへの理解にもとづいて獲得戦略を組み立てれば、SaaS企業はマーケティングの取り組みを改善し、より効果的に顧客を獲得できます。
LTVを総合的に理解することが、SaaSにおける持続的な成長を支えます。
LTVとCACの比率
LTV/CAC比率は、SaaS事業の財務健全性と成長ポテンシャルを評価するうえで欠かせない指標です。長期的な存続可能性を確保するには、SaaS事業はCACの少なくとも3倍のLTVを目指すべきです。顧客生涯価値が高いほど財務見通しは健全になり、顧客獲得への投資判断も良くなります。
投資家は企業の財務的な安定性と成長ポテンシャルを測るためにLTV/CACをよく見ます。それだけに、資金調達において重要な指標です。LTV/CAC比率が良好であれば、そのSaaS企業が顧客獲得に費やす額より多くの利益を顧客から得ていることを示します。LTV/CAC比率の強い企業は、資本へのアクセスが容易になり、成長機会にも恵まれる傾向があります。
LTVを計算するためのツールとリソース
ChartMogulは、SaaS企業がLTVのような重要指標をトラッキングし分析できるサブスクリプション分析プラットフォームです。
獲得日、所在地、プランの種類などさまざまな基準で顧客をコホートに分けられます。そのコホート間でLTVを比較すれば、どのグループが最も価値が高いかがわかります。パターンを見つけ、成長機会を分析し、正確なデータにもとづいて顧客獲得戦略を調整できます。
ChartMogulを使えば、SaaS企業はLTVがどう推移しているか、顧客価値を最大化し獲得のROIを高めるために何ができるかを、より明確に把握できます。
まとめ
顧客生涯価値(LTV)の理解には、いくつもの疑問がついてきます。良いLTVは、堅実な財務見通しと効果的な顧客リテンション施策を示します。LTVは、顧客の長期的な価値を評価し、根拠のある事業判断を下すうえでSaaS企業にとって決定的に重要です。
シンプルな計算でも高度な計算でも、LTVから得られる示唆は、顧客獲得、リテンション、そして全体戦略の判断に役立ちます。
LTVを高めるには、顧客リテンションを強化し、購入額と頻度を上げ、チャーンを減らすことが必要です。LTVを算出しコホート分析を行うためのツールとリソースを活用すれば、企業はマーケティング戦略を最適化し成長を後押しできます。最終的に、LTVを強く重視することで、企業は顧客との関係を最大限に活かし、長期的な成功を手にできます。