エグゼクティブサマリー
新規顧客の獲得は、SaaS でもっとも難しい課題のひとつです。優れたプロダクトだけでは足りません。もっとも速く成長する企業を分けているのは、精度の高いゴー・トゥ・マーケットの実行力です。
ChartMogul ゴー・トゥ・マーケットレポートの創刊号となる本レポートでは、SaaS 企業 2,500 社がどのように顧客を獲得し、転換しているのかを分析します。AI を使ってデータセットをエンリッチし、トライアルから有料へのコンバージョン、営業サイクル、顧客 1,000 社に到達するまでの期間、そして GTM モーションの違いが新規ビジネスにどう影響するのかを明らかにしました。
浮かび上がった 5 つの主要なインサイトは、次のとおりです。
- B2B のトップパフォーマー企業は、わずか 11 か月でサブスクライバー 1,000 人に到達します。一方、中央値の B2B 企業では 2 年かかります。
- 低価格帯では、完全な PLG を貫くほうが新規ビジネスを速く伸ばせます。低い価格帯で営業を足すと摩擦が生まれます。セルフサーブに徹する企業のほうが速く成長します。
- ASP が 100 ドルを超えたあたりから、大半の B2B PLG 企業は PLG の上に営業を重ね始めます。プロダクトと購買プロセスが複雑になるほど、営業の存在が買い手の意思決定を助けます。
- トライアルから有料へのコンバージョンは、PLG でも SLG でも 7 日目前後に跳ね上がります。GTM 戦略が何であれ、成功を決めるのは、ユーザーをいかに早く「アハ体験」に到達させられるかです。
- 割引付きのサブスクリプションは、定価のものと同程度の期間を要することが多いです。ASP が低い層では、むしろ少し長くかかることさえあります。
本レポートは、同僚たちの協力なしには実現しませんでした。このレポートを形にしてくれた Bianca、Koen、Sara、Thomas に、あらためて感謝します。
敬具
Sofia Faustino
顧客成長のマイルストーン
サブスクライバー 1,000 人に到達するまでの期間
B2B のトップパフォーマー企業は、わずか 11 か月でサブスクライバー 1,000 人に到達します。中央値の B2B 企業が同じマイルストーンに届くには、さらに 1 年かかります。最初の顧客 100 社に到達すれば、特定の層が抱える本物の課題を解いていることの証明になります。しかし 1,000 社に届くことは、強いプロダクトマーケットフィットの表れです。
すべての B2B SaaS 企業が 11 か月で顧客 1,000 社に到達できるでしょうか。それは簡単ではありません。顧客の成長スピードは多くの要因に左右されますが、なかでも価格設定が大きな役割を果たします。平均販売価格(ASP)が低い企業は顧客基盤を速く伸ばす傾向があり、価格が高いほど営業サイクルが長くなるぶん成長は鈍ります。SaaS の創業者は、自社の価格帯の現実に合わせて GTM モーションを設計する必要があります。
私たちの調査が示すとおり、持続する SaaS 事業を築くうえで最大の脅威のひとつは時間です。創業から 10 年を経ても、ARR 1,000 万ドルに到達できる企業は 13% にすぎません。だからこそスピードが重要になります。学びが速くなり、最適化が鋭くなり、その 13% に近づけるのです。
B2C では、成長レバーとして価格よりスピードが効きます。成長の速い企業と遅い企業のあいだで、ASP はほとんど変わりません。むしろ B2C のトップパフォーマー企業のほうがやや高い価格を設定していることが多く、知覚価値の高さやプロダクトマーケットフィットの良さを示していると考えられます。B2C の初期成長を生むのは、強い需要、なめらかなオンボーディング、そしてバイラルループであり、低価格だけではありません。
It makes perfect sense that the lower the price, the faster the customer acquisition. The trap I've seen for companies that don't internalize this reality is going after a segment of the market where the sales cycle doesn't support the price point. If you're targeting the Enterprise segment, you can't be selling $20K deals. And if you're going after SMB, you can't be selling $250K deals. Often this is a problem of stakeholder - pursuing a buyer that doesn't have the budget to support the sales motion. Whichever path you choose, it's always critical to truly internalize market realities when deciding on your pricing and packaging.
ベストインクラスのサブスクライバー 1,000 人到達期間
B2B SaaS 企業の上位デシルは、3 か月未満でサブスクライバー 1,000 人に到達します。驚くほどの速さです。おそらく価格帯が低く、そのぶん獲得が速いのでしょう。しかし現実には、多くの B2B 企業が同じマイルストーンに届くまでに何年もかけています。
新規ビジネス ARR の成長率
新規ビジネスの成長は鈍化しているのか
新規ビジネスの成長は圧力を受けており、とくにアーリーステージの SaaS で顕著です。2022 年初頭以降、ARR 100 万ドル未満の企業では新規ビジネス ARR の成長率が 34 パーセントポイント(pp)低下しました。こうした若い SaaS 企業ではいま、新規ビジネス ARR が前年同期比で中央値 24% の減少となっています。ARR 100 万ドル未満のトップパフォーマーでは、鈍化がもっとも急でした。成長率はいまも正の値ですが、2022 年 Q1 の 116% から 2025 年 Q1 の 59% へ、57 pp 下がっています。
より大きな SaaS 企業は、新規ビジネス成長率の中央値 2% で安定しており、アーリーステージの事業に見られた急激な落ち込みを避けています。
成功するために、SaaS 企業は価格設定、パーソナライズされたカスタマージャーニー、創造的なデマンドジェネレーションの戦術といった新しい GTM 戦略を試す必要があります。そしていま、AI がチームの働き方を作り変えるなかで、学習の速さは実行と同じだけ重要になっています。だからこそ Shopify のような企業は、あらゆる職種に AI の習熟を求めるようになりました。先を行くために必要なのは、こうした心構えです。
Today’s market is hyper-competitive, with stronger buyer power, fatigue and uncertainty. Three areas are now critical for us at Salesflow: personal branding, intent-led multi-channel outbound and building a partner ecosystem. Together, they form the foundation for high ROI and efficient CAC.
PLG に営業を足すと成長は加速するのか
低価格帯では、完全な PLG を貫く企業のほうが新規ビジネスを速く伸ばします。ChartMogul の AI エンリッチメントを使ってウェブサイトに「Contact Sales」フォームがあるかを判定したところ、価格が上がるにつれてハイブリッド型の GTM 戦略を採る企業が多いことが分かりました。
ASP が 25 ドル未満の B2B 企業では、新規ビジネス ARR 成長率の中央値は 20% です。営業を早すぎる段階で重ねた企業では 0% でした。低い価格帯では、営業を足すことが摩擦を生みかねません。もっとも速い成長への道は、なめらかなオンボーディング、アクティベーション、プロダクト内のナッジに全力を注ぐことです。
ASP が 100 ドルを超えたあたりから、大半の B2B PLG 企業は PLG の上に営業を重ね始めます。価格帯が上がると、購買プロセスを支えるために「Contact Sales」フォームを用意する企業も増えます。プロダクトが複雑になるほど、買い手は評価と導入に助けを必要とします。営業を足すことが、買い手の購買判断を助けるのです。Loom と Notion がよい例です。両社はいずれも PLG ファーストで始め、その後アップマーケットへ動くために営業を足しました。いまではエンタープライズプランが「Contact Sales」フォーム経由になっています。企業が規模を広げるにつれ、より大きなディールサイズでのコンバージョンを支えられるよう GTM を柔軟に保つことが決定的に重要になります。
One misconception is the idea that the product is so good, it’ll sell itself. So maybe they don’t even need to layer on sales. But the truth is, most products are complex enough that buyers need help evaluating and making a purchase decision. Another common misconception is that sales is expensive, especially if you have a low average contract value or sale price. That can lead to hesitation about investing in sales to improve conversion. But it’s almost always worth experimenting. You’re not married to your go-to-market strategy forever. You can test things, like calling every trial lead or trying outbound. The way you acquire and retain customers will evolve over time. You just need to give yourself the flexibility and time to figure out what works.
トライアルから有料へのコンバージョン
ユーザーが有料に転換するのはいつか(B2B と B2C)
SaaS におけるトライアルから有料へのコンバージョンは、B2B でも B2C でも 1 週目にピークを打ち、その後は急速に落ちます。多くのコンバージョンは 7 日目前後に起こり、これはおそらく無料トライアルが終わるタイミングです。1 週目の日次コンバージョン率を見ると、最終日まで中央値はほぼゼロでした。大半のユーザーは、トライアルが切れてから初めてコンバージョンしていると考えられます。
B2C 企業の 7 日間コンバージョン率は大幅に高くなります(たとえば B2B の 2.5% に対して 16%)。コミットメントの軽さ、割引、そしてより厚い有料マーケティングが背景にあると見られます。ここから持ち帰るべきは、1 週目のアクティベーションとオンボーディングが決定的だということです。価値を届けて「アハ体験」を引き起こすうえで、もっともレバレッジの効く期間がここです。最初の 1 週間でコンバージョンしなかったユーザーは、その後の可能性が急速に下がります。
B2C trials convert at roughly 15–18 percent in the first 7 days, while B2B sits near 2.5 percent. Yet by day 14, both drop to ~1 percent—meaning if you don’t hook someone in the first week, it’s almost over. And within that week, the real cliff happens in just 7 minutes: if a user doesn’t hit value then, they rarely upgrade.
ユーザーが有料に転換するのはいつか(PLG と SLG)
SLG でも PLG でも、大半のコンバージョンは 7 日以内に起こります。これはどちらのモーションが優れているかという話ではありません。PLG と SLG は互いを補完しうるからです。SLG 企業のトライアル数は PLG より少ない傾向があります。1 週目でコンバージョンを大きく押し上げますが、その後は率が平らになります。PLG は 7 日目を過ぎても、より安定したコンバージョン率を保ちます。
営業モーションが何であれ、SaaS 企業がユーザーを転換できる窓は小さいのです。成功は、顧客がどれだけ早く「アハ体験」に到達するかに左右されます。そこへ導くには、プロダクトが際立って直感的な体験を届けるか、関心が高まったその瞬間に働きかけるか、あるいはその両方が必要になります。
In the next 12 months, AI copilots will shift onboarding from static flows to dynamic conversations. As a Growth advisor, I supported Pyne.ai in shaping an early AI onboarding agent that led to 2× higher activation and an 8× faster time to value for a key enterprise client. What made it work? It felt more human and interactive than the usual tooltips users skip. Hard to scale today — but likely to become the new onboarding norm soon.
トライアルの弱点はどこにあるのか
エンゲージメント、アクティベーション、コンバージョンの全体を通して、SaaS トライアルの成果を最適化しましょう。
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割引と営業サイクル
一般的な営業サイクルはどのくらいか
ASP の高い SaaS 企業では、半数近くが営業サイクル 30 日超です。価格帯は営業サイクルを大きく左右します。トライアルから有料へのコンバージョンは最初の 7 日で起こることが多い一方、ASP が上がるにつれてリードをサブスクライバーへ転換するには時間がかかります。ASP が 25 ドル未満の企業では、半数近くが 7 日以内に成約します。しかし価格が 250〜500 ドルに達するころには、営業サイクルの長さは 30 日以上まで伸びます。価格帯が上がれば、関わるステークホルダーも摩擦もデューデリジェンスも増えます。アップマーケットへ動く創業者にとっては、期待値を調整し、ナーチャリングに投資し、長い購買ジャーニーを支える GTM モーションを築くことが欠かせません。
割引は営業サイクルを短くできるのか
割引付きサブスクリプションの営業サイクルは短くなりません。むしろ長くかかることさえあります。ASP が 100 ドル未満の企業では、割引付きサブスクリプションの営業サイクルが長くなる傾向があり、これはすべての四分位で見られます。割引は、ユーザーが期待どおりにコンバージョンしていないときに与えられることが多い、ということを示していると考えられます。
ASP が 100 ドルから 1,000 ドルの層では、中央値と上位四分位(もっとも速いコンバージョン)の営業サイクルは、割引の有無にかかわらず同程度に見えます。つまり大半の企業は、割引してもコンバージョンが速くなるわけではないのです。ただし下位四分位(もっとも遅いコンバージョン)では、割引付きサブスクリプションのほうが長くかかります。プロセスがより複雑か、そもそも見込み客の相性が良くなかったことを示唆します。
When I work with early-stage SaaS founders, one of the first things I tell them is that a huge discount doesn't close deals faster. You need to convince the stakeholders that your product solves their problem and is the best solution for a very specific use case. Pricing can be a game stopper, but not a reason to win deals. P.S. Always try to give discounts for something in return (case study, referral, quote).
割引が営業サイクルを短くするのはどんなときか
低い価格帯(ASP 100 ドル未満)では、割引によって営業サイクルが速くなる企業はわずか 17% です。一方、34% では遅くなっています。ASP が上がるにつれて、影響はより両極に分かれます。500〜1,000 ドルの帯では、56% の企業が割引によって営業サイクルが遅くなったと答え、23% が加速を経験しています。この分かれ方は、意図をもって適切な ICP に対して使えば、割引が緊急性を生みうることを示しています。しかし遅い段階で持ち出された割引は、買い手がすでにプロセスを引き延ばしていたことの表れであることが多いのです。
調査手法と用語集
本レポートの作成にあたり、ChartMogul の匿名化・集計済みデータを分析しました。
- ベンチマークのデータは 2024 年 Q1 から 2025 年 Q1 までを対象としています。
- ASP によるセグメンテーションではすべて、ARR 30 万ドル未満の企業を除外しています。
- AI エンリッチメント機能を使ってデータをセグメント(PLG と SLG、B2B と B2C)し、「Contact Sales」フォームを持つ企業を特定しました。
- コホート(B2B と B2C、PLG と SLG)で示した比率は、いずれも中央値です。
- 各社の営業サイクルの長さは、リードが作成された時点から、そのリードが有料のサブスクライバーになった時点までの日数の中央値で算出しました。
- 「ASP と割引の有無で見た営業サイクル」のグラフの算出では、各社について、割引ありと割引なしのサブスクリプションごとに営業サイクル(リードからサブスクリプションまでの時間)の中央値を取りました。
- 「割引が営業サイクルの長さを短くする・長くする・影響しない企業の割合」のグラフでは、各社の営業サイクルの中央値を、割引ありと割引なしで比較しました。
用語集
平均販売価格(ASP) = 新規ビジネス MRR / 新規顧客数
営業サイクル = リード作成から初回の顧客支払いまでの日数
トライアルから有料へのコンバージョン率 = トライアルユーザーのうち有料顧客に転換する割合
年間ランレート(ARR) = MRR x 12
新規ビジネス ARR = 新規ビジネス MRR x 12
YOY: 前年同期比
New biz = 新規ビジネス