エグゼクティブサマリー
ChartMogul の初となる SaaS リテンションレポートへようこそ。
本レポートの作成にあたり、2,100 社を超える SaaS 企業のデータを匿名化・集計して分析しました。調査から浮かび上がったインサイトは、次の 4 つです。
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ベストインクラスのリテンションを実現している企業は、同業他社より少なくとも 1.5〜3 倍速く成長します。平均すると、ネットリテンション率が 100% を超える SaaS 企業は年 43.6% 成長します。これに対し、ネットリテンション率が 60% 未満の企業の成長は年 13.1% にとどまります。
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B2B SaaS は B2C SaaS よりも高いネットリテンションを享受しています。ARPA が月 10 ドル未満の SaaS 企業でネットリテンション率が 100% を超えるのは、わずか 2.7% です。対照的に、ARPA が月 500 ドル超の SaaS 企業では 41.1% がネットリテンション 100% 超を達成しています。
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SaaS 企業が PMF 後の成長フェーズに入ると、リテンションの重要性はさらに高まります。ARR 100 万〜300 万ドルの企業では、ネットリテンション率の上位四分位は 94% です。ARR 300 万〜1,500 万ドルのセグメントでは上位四分位が 99%、そして ARR 1,500 万〜3,000 万ドルの規模に達した企業では上位四分位が 105% 超で最も高くなります。
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2022 年のリテンションは、すでにかつてないほど難しくなっていました。SaaS 企業の半数以上が、2021 年と比べて 2022 年のリテンション率を落としました。2021 年には約 70% の企業が 2020 年比でリテンション率を高めていたことを考えると、対照的な結果です。
これらのインサイトは、ほんの入り口にすぎません。ぜひ本編で、さらに多くを見つけてください。
本レポートは、同僚たちの協力なしには実現しませんでした。このレポートを形にしてくれた Bianca、Koen、George、Rachel、Toni、Thomas に、あらためて感謝します。
敬具
Sid Jain
リテンションの全体像
リテンションとは
リテンションは、既存の顧客基盤をどれだけうまく維持できているかを測る指標です。SaaS では、リテンションを次の 3 つの方法で測定します。
顧客リテンション:ロゴリテンションとも呼ばれ、一定期間に維持できた顧客の割合を測ります。たとえば、初日に顧客が 10 社いたとして、12 か月後にそのうち何%が残っているか、ということです。
ネットレベニューリテンション(NRR):ネットダラーリテンションとも呼ばれ、一定期間に維持できた収益の割合を測ります。たとえば、初日の月次経常収益(MRR)合計が 10 万ドルだったとして、12 か月後にその収益の何%が残っているか、ということです。
グロスレベニューリテンション(GRR):グロスダラーリテンションとも呼ばれ、エクスパンションを除いたうえで、一定期間に維持できた収益の割合を測ります。たとえば、初日の月次経常収益(MRR)合計が 10 万ドルだったとして、エクスパンションによる貢献を除くと、12 か月後にその収益の何%が残っているか、ということです。
リテンションはどの期間でも測定できますが、12 か月で測るのが一般的です。12 か月で分析すれば、年額サブスクリプションと月額サブスクリプションのどちらにもうまく当てはまります。導入からエクスパンションまで、顧客ライフサイクル全体をカバーできます。さらに、短期的な変動を生む季節性の影響も打ち消せます。
“As our SaaS company has grown, I’ve started to think more annually. Annual run rate (ARR), annualized growth rates, and what does net dollar retention over a year look like? The lifespan of the company is bigger, and to chart a path forward, you should start to think in terms of years and not months.”
リテンションが重要な理由
リテンションは万能薬ではありませんが、SaaS においてはそれに最も近い存在です。
より良いリテンション=より良い成長。 ネットリテンション率が 100% を超える企業、あるいはグロスリテンションが 85% を超える企業は、1.5〜3 倍速く成長します。詳しくはリテンションのトレンドをご覧ください。
高いリテンションは、プロダクトマーケットフィットの強い証拠です。 顧客を維持できているということは、実在する課題を解決し、顧客に価値を提供できている証拠です。SaaS ではこれを、プロダクトマーケットフィットがある状態と呼びます。顧客を獲得し、そのまま維持できていることを示すものであり、スケールする準備がより整っていることを意味します。
リテンションが高い=マージンが高く、資本効率の高いビジネス。 SaaS では、顧客の獲得が事業運営で最もコストのかかる部分です。Bessemer VP によれば、規模が大きくなっても、セールスとマーケティングの費用が支出の大半を占めます。高いコストをかけて獲得したこれらの顧客を維持できなければ、ビジネスの効率は落ち、スケールにかかるコストも膨らみます。
リテンションが高い=バリュエーションも高い。 投資家は、高成長で資本効率の高いビジネスを好みます。高いネットレベニューリテンションは、その両方を示すシグナルです。だからこそ、ネットレベニューリテンションが高い企業は、より高いバリュエーションを得られることが多いのです。
“Net revenue retention (NRR) is the heartbeat of the most successful SaaS companies. See the NRR for companies like Snowflake, Cloudflare, ZoomInfo, Slack, and Datadog. You can't succeed today with a lax or static retention strategy.”
リテンションの計算方法
リテンションは常にコホート単位、つまり特定の顧客グループを対象に計算すべきです。年次のリテンションは次のように計算します。
例として、SaaS Inc. という架空の企業を考えてみましょう。以下はその MRR 推移の一部です。
まず、SaaS Inc の顧客リテンション率を計算します。
- SaaS Inc には 1 年前、有料顧客が 4 社(A、B、C、D)ありました。現在アクティブなのは、そのうち 3 社だけです(顧客 C がチャーンしたため)。したがって顧客リテンションは 3/4 = 75% です。
次に、SaaS Inc のネットレベニューリテンション(NRR)率を計算します。
- 1 年前、SaaS Inc には有料顧客が 4 社あり、MRR の合計は 770 でした。現在に目を移すと、一部の顧客はチャーンし、一部はコントラクション、残りはエクスパンションしました。1 年前に存在していた同じ顧客グループからの現在の MRR 合計は 800 です。したがってネットレベニューリテンション率は 800/770 で、103.9% となります。
SaaS Inc のネットリテンション率(NRR)が 100% を超えていることに注目してください。これはまったく正常なことで、エクスパンションで得た収益がコントラクションとチャーンで失った収益を上回るときに起こります。
最後に、SaaS Inc のグロスレベニューリテンション(GRR)率を計算します。
- エクスパンションを除くと、1 年前に存在していた同じ顧客グループからの SaaS Inc の現在の MRR は 630 です。したがってグロスレベニューリテンション率は 630/770 = 81.8% です。
顧客 E(新規ビジネス)と F(2 年前からの再開)が、リテンションに何の影響も与えていないことに注目してください。
NRR と GRR と顧客リテンションの違い
ネットレベニューリテンション(NRR)は、グロスレベニューリテンション(GRR)よりも必ず高くなります。ネットレベニューリテンションはエクスパンションを考慮に入れるのに対し、グロスは考慮しないからです。エクスパンションのプラス寄与があるため、NRR > GRR となります。
グロスリテンションと顧客リテンションは 100% を超えられませんが、ネットレベニューリテンションは超えられます。エクスパンションが、コントラクションとチャーンで失った収益を打ち消すことがあります。その場合、ネットレベニューリテンションは 100% を超えます。グロスリテンションと顧客リテンションでは、これは起こり得ません。
グロスリテンションは、顧客リテンションと大きく異なることがあります。これは、少数の顧客に収益が高く集中している場合に起こります。1 年前に顧客が 100 社いて、そのうち 20 社がチャーンしたとしましょう。この場合、顧客リテンション率は 80% です。しかし、その 20 社が収益の大半、たとえば 50% を占めていたとしたら、グロスレベニューリテンションはわずか 50% です。大きく違います。
新規ビジネス、いわゆる New Biz のリテンションは、新規顧客だけのリテンションを指します。通常は、特定の月に加わったすべての顧客をコホート単位で計算します。一方、一般的なリテンションは、既存と新規の両方のサブスクライバーを含む顧客基盤全体の維持を測ります。
コホートでリテンションのトレンドを見つける
SaaS におけるコホートとは、同じ年月に最初のサブスクリプションを開始した顧客のグループです。コホート分析を使えば、特定の顧客グループのリテンショントレンドを把握できます。たとえば、サブスクリプションに課金を始めてから最初の数か月における顧客の健全性を判断したり、顧客がどの時点で離脱しているかを特定したりできます。
リテンションは誰が担うのか
従来は、カスタマーサクセスのリーダーがリテンション指標を担ってきました。オンボーディング、教育、アカウントマネジメント、アップセル、エクスパンション、更新といった、リテンションを高める活動に責任を負います。
ただし、更新・エクスパンション・アップセルをセールスチームが管理する SaaS 企業もあり、セールスともカスタマーサクセスとも別に専任のエクスパンションチームを置く企業もあります。その場合は、そうしたチームもリテンションの責任を負い得ます。
収益成長と同じく、リテンションは事業のあらゆる部分が関わります。プロダクトとエンジニアリングは、プロダクトの定着、ユーザー満足度、顧客価値の創出を牽引します。ファイナンスチームは支払い条件と適時の請求を担います。そしてバックオフィス全体が、全社的にカスタマーサクセスを支えます。リテンション指標の目標を担う部門は 1 つかもしれませんが、高いリテンション率は事業全体の最優先事項であるべきです。
NRR の長所と短所
指標として、ネットレベニューリテンションは計算が簡単で、ごまかしが利きません。低いリテンション指標の陰に隠れることはできないのです。さらにネットリテンションは複合指標なので、SaaS ビジネスの状態について多くを語ってくれます。
一方で、ネットリテンションには弱点もあります。他の SaaS 指標と比べると、ネットリテンションは遅行指標です。頻度が高くなく、動くまでに時間がかかることも多いです。また複合指標であるため、全体像をつかむには構成要素まで深く掘り下げる必要があります。
“We really like this metric because it encapsulates both the business’s ability to retain — so minimizing churn — and also their ability to upsell. That’s super important, not just winning new logos in B2B software, but adding additional products, expanding your platform, cross-selling, and increasing usage.”
ネットリテンション
ARR 別の NRR ベンチマーク
ネットレベニューリテンション(NRR)は、ネットダラーリテンションとも呼ばれ、一定期間(通常は 12 か月)に維持できた収益の割合を測る指標です。たとえば、初日の月次経常収益(MRR)合計が 10 万ドルだったとして、12 か月後にその収益の何%が残っているでしょうか。
ネットレベニューリテンション率が高ければ、より良い成長を実現し、資本効率の高いビジネスを築き、投資家からより高いバリュエーションを得ることにもつながります。
“Our focus is on investing in mission-critical businesses with high net revenue retention. To be honest, it’s hard to find such businesses in the $5-10m ARR range where our focus is.”
良いネットリテンション率がどれくらいかは、事業のステージによって変わります。プロダクトマーケットフィット前の段階では、ネットリテンションはたいてい低いままです。スタートアップが成長してプロダクトマーケットフィットを見つけると、ネットリテンションは改善します。そして企業が規模に達し、カテゴリーリーダーになると、ネットリテンションは 100% を超えることも多くなります。ベンチマークするときは、必ず自社のステージを念頭に置いてください。ARR 100 万〜300 万ドルの企業では、ネットリテンション率の上位四分位は 94% です。ARR 300 万〜1,500 万ドルのセグメントでは上位四分位が 99%。ARR 1,500 万〜3,000 万ドルの規模に達した企業では、上位四分位が 105% 超です。
ネットリテンション率が 100% を下回るということは、ARR が目減りしているということです。同じ顧客群から得られる ARR が、1 年前より今のほうが少ないことを意味します。逆にネットリテンション率が 100% を超えていれば、強いプロダクトマーケットフィットを示し、既存の顧客基盤から収益を複利で伸ばせる力があることを示しています。
ARR が大きくなるほど、ネットリテンション率が 100% を超える企業の割合も高まります。ARR 1,500 万〜3,000 万ドルのレンジでは、SaaS 企業の 35.1% がネットリテンション率 100% 超です。
ベストインクラスのネットレベニューリテンションは 110〜120% 前後のレンジです。それだけ高いネットリテンションを持つ企業は、たいてい高いグロスリテンションと強力なエクスパンションループを組み合わせています。
ARPA 別の NRR ベンチマーク
良いネットリテンション率とされる水準は、ARPA によって変わります。
ARPA はアカウント当たり平均収益、つまり全顧客の平均月次経常収益です。営業サイクルの長さ、契約期間、割引、オンボーディング、カスタマーサポートの形態、さらにはリテンション戦略まで、すべては ARPA に左右されます。同じ ARPA 帯の企業は、思っている以上によく似ているのです。
ARPA が高いほど、ネットリテンション率も高くなります。ARPA が月 10 ドル未満の企業では、ネットリテンション率の上位四分位は 65.1% です。B2B 領域で上位市場へ向かうにつれ、リテンションは改善し続けます。ARPA が月 500 ドルを超える企業、あるいは ACV(年間契約金額)が 6,000 ドルを超える企業では、リテンション率の上位四分位は 109.3% です。
B2C 企業が高いネットリテンション率を実現するのは難しいことです。B2C ではチャーンが高く、エクスパンションが低いからです。個人顧客による衝動的な購入が多いためチャーンは高く、アップセルやクロスセルの機会が少ないためエクスパンションは低くなります。ARPA が月 10 ドル未満の SaaS 企業でネットリテンション率が 100% を超えるのは、わずか 2.7% です。対照的に B2B SaaS では、ネットリテンションが 100% 近くかそれ以上であることが最低条件です。ARPA が月 500 ドル超の SaaS 企業では、41.1% がネットリテンション 100% 超です。
ベストインクラスのネットレベニューリテンションは、自社の ARPA 帯によって変わります。ミッドマーケットやエンタープライズに販売する B2B SaaS であれば、115〜125% のレンジであるべきです。
ARPA が高いと NRR も高くなるのはなぜか
1. グロスチャーンが低い:営業サイクルが長く ACV が高いということは、B2B ではより情報に基づいた購買が行われる(B2C では衝動的な購入が多いのと対照的)ことを意味します。その結果、後々のチャーンも少なくなります。
2. エクスパンション収益が多い:ARPA が高いほど、企業はプロダクトのアップセルやクロスセルをはるかに多く実現できます。当社の分析では、ARPA が月 500 ドルを超える SaaS 企業では、新たに得られた収益の 39.2% がエクスパンション由来です。このエクスパンション収益が、ネットリテンションを押し上げます。
NRR が低くても許容されるのはいつか
1. プロダクトマーケットフィット前のアーリーステージの SaaS スタートアップである場合。始まったばかりで、プロダクトの顧客を探している段階です。このフェーズでは、すべての顧客セグメントで強いリテンション率が出ないのは想定内です。
2. 顧客獲得コストが低い、あるいはほぼゼロである場合。バイラルなプロダクトを持ち、ネットワーク効果の恩恵を受けているなら、できるだけ広く網を張りたいはずです。この場合、一時的にリテンションが低いことは許容されます。
3. B2C 領域で事業を展開している場合。B2C のリテンション率は一般に低くなります。B2C のスタートアップが、B2B 市場で事業を展開する企業ほど高いリテンション率を出すのは、考えにくいことです。
“Net Revenue Retention is a big metric we’re always looking at. I just love the NRR metric and picking it apart to try and figure out where we have market fit and where we don’t, and how our pricing and packaging are coming together.”
グロスリテンション
ARR 別の GRR ベンチマーク
グロスレベニューリテンション(GRR)は、グロスダラーリテンションとも呼ばれ、エクスパンションを除いたうえで、一定期間(通常は 12 か月)に維持できた収益の割合を測る指標です。たとえば、初日の月次経常収益(MRR)合計が 10 万ドルだったとして、エクスパンションによる貢献を除くと、12 か月後にその収益の何%が残っているでしょうか。
グロスレベニューリテンション(GRR)という指標は、見落とされることがあります。見落とさないでください。ネットリテンションと合わせて見ることで、グロスリテンションはリテンションのより完全な姿を描いてくれます。
ネットリテンション率が 105% だとしましょう。チャーンに問題はないと言い切れるでしょうか。いいえ、言い切れません。高いエクスパンション率が、高いチャーン率を覆い隠している可能性があります。たとえばネットリテンション 105% は、グロスリテンション 90% とエクスパンション率 15% の結果かもしれませんし、グロスリテンション 70% とエクスパンション 35% の結果かもしれません。グロスリテンションの数字を見ない限り、グロスチャーンが高いのか低いのかはまったく分かりません。
“If you chart gross revenue retention, net revenue retention, and growth rate on a single page you have all you need for a board meeting. It gets people thinking about the whole customer journey. How are we driving new business? How are we retaining it? How are we upselling it?”
グロスリテンションはエクスパンションを除くため、上位四分位の値は ARR レンジ間でより揃います。ARR 300 万〜800 万ドルの企業ではグロスリテンション率の上位四分位が 81.2%、ARR 1,500 万〜3,000 万ドルでは 83.8% です。また、企業が大きくなるにつれてグロスリテンションの下位四分位が改善することにも注目してください。プロダクトマーケットフィットを達成した SaaS 企業の割合が増えていくためです。
事業のどのステージであっても、ベストインクラスのグロスリテンションは 86% 超です。1 年間で失うことが許されるグロス収益は、14% までということです。
ARPA 別の GRR ベンチマーク
「良い」グロスリテンションの定義は、B2B SaaS と B2C SaaS で大きく異なります。ARPA が月 500 ドル超の企業の上位四分位はグロスリテンション 90% 以上に達しますが、ARPA が月 50 ドル未満の企業の上位四分位は 60〜70% にとどまります。ある SaaS 企業のグロスリテンションが良いかどうかを判断するときは、比べる相手を間違えていないか確かめてください。
B2C 企業がグロスリテンション率 85% を超えるのは難しいことです。ARPA が月 10 ドル未満の企業でそれを達成しているのは、わずか 5.3% です。対照的に B2B SaaS では、ARPA が月 500 ドル超の企業の 35.7% がグロスリテンション 85% 超です。
ARPA が高いほど、グロスリテンション率も高くあるべきです。ミッドマーケットやエンタープライズの顧客に販売する企業のベストインクラスのグロスリテンション率は、95% 前後です。B2C の世界では、上限は 75〜80% 前後です。
顧客リテンション
ARR 別の顧客リテンションベンチマーク
顧客リテンションは、ロゴリテンションとも呼ばれ、一定期間(通常は 12 か月)に維持できた顧客の割合を測る指標です。たとえば、初日に顧客が 100 社いたとして、12 か月後にそのうち何%が残っているでしょうか。
顧客リテンションとグロスリテンションは、両方を見るのが望ましいです。両者はかなり違うこともあります。少数の顧客に収益が高く集中している場合や、コントラクション率が非常に高い場合に起こります。
重要なポイント:顧客リテンションは、事業の初期段階では低いままです。事業が成長してプロダクトマーケットフィットを見つけると、リテンションは改善します。ARR 300 万〜800 万ドルのレンジの企業では、顧客リテンション率の上位四分位は 80.4% です。事業が規模(ARR 1,500 万〜3,000 万ドル)に達すると、顧客リテンション率の上位四分位はさらに 84.2% まで改善します。
また、ARR 100 万ドル未満のスタートアップでは顧客リテンションのばらつきが大きいことにも注目してください。25 パーセンタイルと 75 パーセンタイルの値の差が大きく開いています。アーリーステージで強いプロダクトマーケットフィットを経験できるスタートアップは、ごく一部だからです。それ以外は経験できず、リテンション率も低くなります。ARR のレンジが上がるにつれて、この差が縮まっていくことに注目してください。
ARR のレンジによって、SaaS 企業の 11〜19% が顧客リテンション 85% 超を達成しています。
事業のどのステージであっても、ベストインクラスの顧客リテンション率は 85〜87% 前後です。
ARPA 別の顧客リテンションベンチマーク
「良い」顧客リテンションの定義は、誰に売っているか(消費者、SMB、エンタープライズ)に大きく左右されます。
B2B 企業は B2C 企業より顧客リテンション率が高いことが多いです。ARPA が月 500 ドル超の企業では、顧客リテンション率の上位四分位は 85.7% です。対照的に、ARPA が月 10 ドル未満の企業では上位四分位がわずか 63.1% です。これは想定どおりです。B2B 企業はディールサイズが大きく、営業サイクルが長く、意思決定が一般により情報に基づくため、顧客リテンションは高くなります。
ARPA が月 500 ドル超の SaaS 企業では、27.7% が顧客リテンション率 85% 超です。B2C 側では、消費者に販売する SaaS 企業のうち顧客リテンション率 85% 超はわずか 5% です。
ベストインクラスの顧客リテンション率は、ARPA によって変わります。ARPA が月 10 ドル未満の企業では 74.9% 超です。上位市場に移るにつれ、ベストインクラスの顧客リテンションは高まります。ARPA が月 500 ドル超の企業では 93.1% 超です。
“Not every dollar is created equal, especially in the venture world. A retained dollar is worth a lot more than a newly acquired dollar that has yet to renew.”
新規ビジネスのリテンション
新規顧客のリテンション率
新規ビジネス、いわゆる New Biz のリテンションは、新規顧客だけのリテンションを指します。通常は、その年の特定の月に加わったすべての顧客をコホート単位で計算します。
ここでは、新規ビジネスのリテンションを ARPA ではなく平均販売価格(ASP)別にベンチマークします。ASP のほうが ARPA より、新規顧客の獲得と密接に結びついているからです。
ASP が高いほど、新規顧客のリテンションも高くなります。最初の 3 か月では、ASP が月 500 ドル超の企業の上位四分位が顧客の 98% を維持できています。ASP が月 10 ドル未満の SaaS 企業では 87% です。最初の 3 か月のリテンション率が低い場合は、オンボーディングまたは獲得(つまり相性の悪い顧客の獲得)に問題があるサインです。
リテンションカーブは 11 か月目までは指数的な減衰を描きます。つまりサブスクライバーはサブスクリプション開始からの初期の数か月でチャーンしやすく、契約期間が長くなるほどチャーンの可能性は下がります。11 か月目と 12 か月目には、顧客リテンションが大きく落ち込みます。年額プランのチャーンによるものです。
注:このセクションのベンチマークは、あくまで参考として受け取ってください。各社の営業の型はそれぞれ固有であり、ここでの集計値では個々のビジネスのニュアンスを捉えきれない場合があります。
どの ARR レンジでも、上位四分位の企業は最初の 3 か月で顧客の 90%、最初の 12 か月で 70% を維持できています。規模に達した段階(ARR 1,500 万〜3,000 万ドル)では、それぞれ 93% と 77% と高くなります。
事業の規模がどうであれ、顧客を維持するのは常に難しいことです。
新規顧客の NRR
最も優れた SaaS 企業は、初日から新規顧客の収益を維持し、さらに拡大できています。ARPA が月 100 ドル超の SaaS 企業の上位四分位では、新規ビジネスのネットレベニューリテンションが 3 か月時点でも 12 か月時点でも 100% を超えていることに注目してください。
ベストインクラスの B2B SaaS 企業は、新規ビジネスの収益を維持するだけでなく、伸ばすことまでできています。B2C 企業にとっては、より難しい話です。時間とともに新規ビジネスの収益が目減りしていく様子を見てください。
規模に達した(ARR 1,500 万〜3,000 万ドル)最も優れた SaaS 企業は、初日から顧客を伸ばせています。12 か月のリテンションが 3 か月のリテンションより高いことに注目してください。これは、典型的なランドアンドエクスパンドの型が機能している姿です。
リテンションのトレンド
高いリテンション=より速い成長
リテンションが良ければ、成長も良くなります。ネットリテンション率が 100% を超える企業は、同業他社より少なくとも 1.5〜3 倍速く成長します。平均すると、ネットリテンション率が 100% を超える SaaS 企業は年 43.6% 成長します。これに対し、ネットリテンションが 60% 未満の企業の成長は年 13.1% にとどまります。
リテンションが 60% 未満のレンジの企業が、60〜80% のレンジの企業より速く成長するのはなぜか、と思うかもしれません。良い問いです。これは、60% 未満のレンジには急成長中の B2C スタートアップが多く含まれ、60〜80% のレンジには成長の遅い B2B SaaS スタートアップが多いためです。
成長率が高いほどリテンションも高いという関係は、グロスリテンション率にも当てはまります。
グロスリテンション率が 85% を超える企業は、少なくとも 1.5〜2.5 倍速く成長します。平均すると、グロスリテンション率が 100% を超える SaaS 企業は年 40.1% 成長します。これに対し、グロスリテンションが 60〜75% のレンジの企業と 60% 未満の企業は、それぞれ年 20.2%、13.4% の成長率です。
注:この分析では ARR 300 万ドル未満の企業をすべて除外しました。プロダクトマーケットフィットがあり、成長率とリテンション率が安定している企業だけを含めるためです。
上位四分位を比べる
ネットリテンション、グロスリテンション、顧客リテンションの上位四分位は、どれくらい違うのでしょうか。
顧客リテンションとグロスレベニューリテンションは、通常数パーセントポイントの差に収まります。ネットリテンションはそれより高く、企業が大きくなるほど、あるいは上位市場に向かうほど、ネットとグロスの差は広がります。ARR/ARPA が高いほど、エクスパンション率が高いためです。
NRR 100% 超
ネットリテンション率が 100% を超えていれば、永遠にオーガニックに成長できるのでしょうか。
残念ながら、答えはノーです。リテンションは目減りし始めます。下のチャートをご覧ください。0 年目のすべての有料顧客について、1 年目と 2 年目のネットリテンション率を示しています。
お気づきのとおり、ネットリテンション率は 2 年目に下がり始めます。1 年目と比べて 2 年目はチャーンが高く、エクスパンション収益が少ないためです。当社の分析では、新規ビジネスの顧客は在籍 1 年目にもっともエクスパンションすることが分かりました(利用を拡大し、オンボーディングを完了させていく時期だからです)。1 年目には新規ビジネスがなかったため、エクスパンションによる支えもその分小さくなります。
2021〜2022 年の NRR
リテンションの面で 2022 年が厳しい年だったとしても、それはあなただけではありません。
SaaS 企業の半数以上が、2021 年と比べて 2022 年のリテンションを落としました。厳しいマクロ経済環境のなかで、サブスクライバーは SaaS 支出を見直し、削減したのです。2021 年には約 70% の企業が 2020 年比でリテンション率を高めていたことを考えると、対照的な結果です。
2022 年のリテンションが 2021 年より低いというこの傾向は、SaaS スタートアップに限った話ではありません。Snowflake のような SaaS の巨人も、2021 年の高水準からリテンションを落としています。
エクスパンション
追加された収益のうち、エクスパンション由来はどれくらいの割合でしょうか。
ARR が大きいほど、エクスパンション由来の収益の割合も高まります。ARR 1,500 万〜3,000 万ドルのレンジの SaaS 企業では、追加された収益の 37.1% がエクスパンション由来です。規模に達した段階で既存顧客にアップセルやクロスセルをしていないなら、重要な成長機会を逃していることになります。
ARPA が月 500 ドル超の企業では、追加された収益の 39.2% がエクスパンション由来です。ARPA が高いほど、企業はアップセルやクロスセルをはるかに多く実現できます。つまり、エクスパンション収益も増えるということです。想像どおり、これが高い ARPA 帯のネットリテンション率を押し上げます。
注:獲得 ARR = 新規ビジネス ARR、エクスパンション ARR、再開 ARR の合計。
リテンションを高める
リテンション率が高ければ、より良い成長を実現し、資本効率の高いビジネスを築き、投資家からより高いバリュエーションを得ることにもつながります。しかし、リテンションを高めるのは難しいことです。長期的なリテンションを高めるための、私たちのおすすめのヒントを紹介します。
1. 自社のビジネスを知る。毎年どれくらいの割合の顧客がチャーンしているか、把握していますか。そのうち何社がオンボーディング段階で離脱しているでしょうか。MRR は自社にどう出入りしているでしょうか。こうした厳然たる指標を知らないのは、ヘッドライトを点けずに暗闇を走るようなものです。
2. 正しい顧客を狙う。リテンションに問題があると決めつける前に、実は獲得に問題があるのではないかを考えてみてください。相性の悪い顧客を狙っているのかもしれません。自社の理想的顧客プロファイル(ICP)を把握していますか。プロダクトから最も価値を得られる顧客だけに、マーケティングしましょう。
3. ヘルスチェックを行う。顧客の利用データを追跡・分析し、改善すべき領域を特定しましょう。定期的に顧客のヘルスチェックを実施し、問題には先回りして対応します。NPS や顧客フィードバックもここに含まれます。フィードバックは積極的にプロダクトへ取り込みましょう。
4. 価格を価値に連動させる。顧客が去る最大の理由は、プロダクトに価値を感じられないことです。それは価格設定に起因します。自社プロダクトの主要な価値指標は何か、そしてどうすれば価格をそれに合わせられるかを問いましょう。
5. コントラクションを抑える。コントラクションは、失われる MRR 全体の 40% に達することもあります。コントラクションを抑える、あるいは利用を増やす戦略はありますか。覚えておいてください。守った MRR=得た MRR です。
6. 退出インタビューを実施する。解約後、顧客に連絡を取りましょう。なぜチャーンしたのかを尋ねます。価格が理由だったのか、それともプロダクトに重要な機能が欠けていたのか。必ず何か新しい学びが得られます。
7. エクスパンションループをつくる。高いエクスパンション率がなければ、どんな企業もベストインクラスのネットリテンション率を実現するのは難しいです。自社の価格構造に、エクスパンションループは組み込まれていますか。すでに自社を気に入ってくれている顧客に、アップセルやクロスセルできる方法はないでしょうか。隣接市場向けの機能を狙えないでしょうか。
8. 意図しないチャーンを減らす。意図しないチャーンとは、カードの有効期限切れや残高不足など、さまざまな理由で決済が失敗して起こるチャーンです。それに対処する戦略はありますか。
9. 堅牢なオンボーディングを用意する。顧客はプロダクトの魔法を体験できていますか。「なるほど」と思える瞬間に到達できていますか。それとも、その前に離脱してしまっているでしょうか。サポートドキュメントは明確で分かりやすいですか。セールスからカスタマーサクセスへの引き継ぎは適切に行われていますか。どれも些細に思えるかもしれませんが、最初の 3 か月のリテンション改善には大きく効きます。
“Guided onboarding that starts during the sales cycle helps us to convert and retain accounts with complex requirements. First, our solutions engineer analyzes the prospect’s setup and prepares a detailed implementation plan. Then, after the sale, our customer onboarding specialist guides the customer every step of the way.”
用語集と調査手法
すべての集計値は、ChartMogul の匿名化・集計済みデータを分析して算出しました。集計にあたっては、12 か月間フルにアクティブだった企業のみを対象としています。
特に記載がない限り、集計値は 2022 年を対象に算出しています。2 年分の履歴が必要な場合は、2021 年も対象に含めました。とくに新規ビジネスのリテンションについては、2021 年 1 月から 2022 年 12 月までの各月の新規ビジネスを対象に、コホート単位で指標を算出しています。
用語集
ACV:Annual Contract Value(年間契約金額)
ARPA:Average Revenue per Account(アカウント当たり平均収益)=(総収益 / 顧客総数)
ARR:Annual Run Rate(年間ランレート、MRR x 12)
ASP:Average Sale Price(平均販売価格)=(新規ビジネス MRR 合計 / 獲得顧客総数)
B2B:Business to Business(企業間取引、通常 ARPA が月 25 ドル超)
B2C:Business to Consumer(企業から消費者への取引、通常 ARPA が月 25 ドル未満)
GRR:Gross Retention Rate(グロスリテンション率)。Gross Dollar Retention、または単に Gross Retention とも呼ばれます
MRR:Monthly Recurring Revenue(月次経常収益)
New Biz:New Business(新規ビジネス)
NRR:Net Retention Rate(ネットリテンション率)。Net Dollar Retention、または単に Net Retention とも呼ばれます
PMF:Product-Market Fit(プロダクトマーケットフィット)
SMB:Small and Medium Business(中小企業)